法律解説Q&A |成年後見制度と任意後見制度

  1. 成年後見制度とはどのような制度なのですか
    精神上の障害により(民法7条、11条、15条)、判断能力が低下した人の自主性を尊重しつつ、財産を保護するための制度です。現在の制度は平成11年改正(平成12年4月施行)によるものです。
    それ以前の制度は全面的に行為能力(財産の処分能力)を剥奪する禁治産制度と重要な法律行為につき行為能力を制限し、保佐人に同意権のみを付与する(取消権なし)準禁治産制度しかありませんでした。それを症状に応じて本人の自主性を最大限尊重する制度としたのが、現在の制度です。 
    家庭裁判所の判断でなされる法定後見には①成年後見、②保佐、③補助の3種類があります。本人の判断能力の度合いに応じるもので、本人の判断能力が最も低いものが①後見でその次が②保佐、最後に③補助です。上記のほかに任意後見契約に関する法律による④任意後見があります。
    例えば、高齢の方の判断能力が低下した場合に面倒を見る人をつけて、その人に対象者の財産保護や病院・施設などへの対応を任せようとする場合に上記のどの制度を利用するかを検討することとなります。
  2. 成年後見(民法7条、8条)
    1. 対象者
      「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法11条)が対象となります。「常況」とは日常的にそのような状態にあることを意味します。
      例えば、重度の認知症でほぼ毎日、日常生活の基本的な判断ができなくなった人がこれにあたります。判断能力が低下して、 財産を自分で管理する事ができなくなった場合や施設の入所などの判断ができなくなり、親族が本人の施設の入所など世話をして財産管理もしようとする場合に、 後見の申出をすることとなります。
    2. 申立できる人
      本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、保佐人、補佐監督人、補助人、補助監督人、検察官です。 四親等内の親族がいない場合には市区町村長が申立することができます。
    3. 医学鑑定(家事事件手続法119条)
      後見は本人の財産管理権限を奪うものですから、裁判所はその必要があるかどうかを判断します。 そのため医学の専門家による精神鑑定が必須となっています。認知症関係で通院している病院はその手続きを知っていることが通常です。
    4. 審判前の保全処分
      悪徳商法の被害をきっかけに後見申立をして、裁判所の審判前に契約の取消しをする必要がある場合などには、審判前の保全処分を用いることができます。 この手続きで審判までの間の財産の管理者の選任ができます。
      後見は本人の財産管理権限を奪うものですから、裁判所はその必要があるかどうかを判断します。
      そのため医学の専門家による精神鑑定が必須となっています。認知症関係で通院している病院はその手続きを知っていることが通常です。
    5. 法律行為の取消
      成年後見を受けた人を成年被後見人と言います。成年被後見人の法律行為は取り消すことができます。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については取り消せません(民法9条)。
  3. 保佐(民法11条)
    1. 対象者
      「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」が対象となります(民法11条)。
    2. 申立できる人
      本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人、検察官です。
    3. 医学鑑定
      必要です(家事事件手続法133条、119条)。
    4. 保佐人の同意
      民法13条1項は保佐人の同意が必要な行為を列挙しています。①元本を領収し、又は利用する、②借財又は保証、③不動産その他重要な財産の処分等、④訴訟行為、⑤贈与、和解等、⑥相続の承諾又は放棄等などです。
    5. 同意のない行為
      取り消すことができます(民法13条4項)。
  4. 補助(民法15条)
    1. 対象者
      「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」が対象となります(民法15条)。
    2. 申立できる人
      本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、検察官です。
    3. 医学鑑定
      不要です。
    4. 保佐人の同意
      同意が必要な行為は家庭裁判所が審判で定めます(民法17条)。保佐では同意が必要な行為が9項目法定されていますが、補助ではその一部のみを裁判所が定めます。
    5. 同意のない行為
      取り消すことができます。特に同意が必要であるとして裁判所が審判で同意が必要とした行為が対象となります。
  5. 任意後見(任意後見契約に関する法律、この項目で「法」といいます)
    1. 任意後見契約
      委任者(めんどうを見てもらう人)が受任者(任意後見受任者、めんどうを見る人)に対し、将来、認知症等により判断能力が不十分になった場合に、自分の生活、療養看護、財産管理などに関する 事務の代理権を与える委任契約 です(法2条1号)。
    2. 公正証書(法3条)
      任意後見契約は公正証書によりしなければならない。
    3. 登記
      任意後見契約は登記をしなければなりません。
    4. 任意後見監督人(法4条)
      任意後見契約が登記されている場合に、家庭裁判所は任意後見監督人を選任します(法4条本文)。この選任の時から任意後見契約は効力を生じます(法2条1号)。任意後見監督人は裁判所に定期的に報告する義務があります(法7条)。
    5. 結局どういう制度なのですか?
      法定後見(上の3つ)は「精神上の障害により判断能力が低下した」との要件が必要なのに対して、任意後見では判断能力が低下する以前から後見人を定めることができます。ただし、任意後見契約は公正証書で行い、登記をする必要があります。その後に、本人(委任者)の判断能力が低下した時点で裁判所の審判で任意後見人を監督する任意後見監督人を選任することにより任意後見契約は効力を生じます。
      任意後見人は施設への入所申込みなどの事務や預金の引き出しなどの事務について代理権が与えられ、その事務を代理人として行うことができます。
    6. 法定後見とどこが違うのですか?
      成年後見人は成年被後見人の行為全般について取消権があり、保佐人、補助人は同意が必要な行為について、「本人が同意なく行なった」との理由での取消権があります。任意後見人にはその取消権はありません。
      任意後見人は、詐欺などを理由とした本人の取消権を財産管理契約の一環として行使することはできますが、それ以上に広く独自の取消権を行使したい場合には法定後見による必要があります。


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