法律解説Q&A |保険金受取人への遺留分の主張

質問 先月、別居中の夫が亡くなりました。夫は愛人の元に移り住んで私に離婚を求めて裁判をしている最中でした。夫が自分にかけていた生命保険の受取人は私の知らない間に夫の父に変更されていました。夫は全財産を夫の父親に包括遺贈する遺言書を書いていました。
夫の相続人は私と子供2人です。夫の遺言書や保険金受取人の変更について遺留分の主張はできないでしょうか。

回答 財産を父親に包括遺贈した件は遺留分の主張ができます。しかし、生命保険金の受取人を変更した件については遺留分の主張はできません。


  1. 包括遺贈への遺留分の主張
    質問の財産の父親への包括遺贈については、相続人が遺留分の主張をできることには問題ありません。遺留分とは亡くなった人の兄弟姉妹以外の相続人に最低限保証される遺産の取得分です。民法1042条は①直系尊属のみが相続人のときは法定相続分の3分の1、②それ以外の場合は法定相続分の2分の1が遺留分とされます。
    質問の夫が全財産を父親(子供がいるので父親は相続人とはなりません)に遺贈したとしても、妻や子供には法定相続分の(妻は2分の1、子は各4分の1)の2分の1が遺留分となります。その結果、妻は4分の1、子は各8分の1を遺留分として相続財産を取得することができます。
  2. 保険金受取人への遺留分の主張
    一方で、死亡による保険金は相続財産とはならないとする判例(最高裁昭和40年2月2日判決)があります。昭和40年の最高裁判決は保険金の受取人が「相続人」と指定された事案で、受取人は相続により保険金を受け取るのではなく保険契約により保険金を受け取るとしました。即ち、保険契約の効力発生と同時にその相続人の固有財産となって、被保険者(保険契約者)遺産から離脱しているとしました。この考えによると、質問の事案でも保険金は被相続人の遺産とはならないと考えられます。
    ところで、質問の事案ではわざわざ保険金の受取人を妻から父親に変更しています。この部分を夫の財産を贈与ないし遺贈したとみて遺留分の主張ができないであろうか、というのが問題となったのが最高裁平成14年11月5日判決の事案です。
    平成14年の最高裁判決は、上記の昭和40年の最高裁判決を引用して、生命保険金は遺産には属さないとしました。そして、もともと遺産ではないので保険金の受取人を変更しても、遺留分侵害請求(その後の民法改正後は遺留分侵害額請求と言います)の対象とはならないとしました。


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