法律解説Q&A |保険金は特別受益となるか

質問 先月、父が亡くなりました。父は遺言で実家の土地建物や預金(合計約6000万円)を全て跡取りである兄に全部相続させ、父の生命保険金(約500万円)も兄が受取人に指定されています。父の生前は兄夫婦が父の世話をしていました。
父の相続人は私達子供3人です。そこで私と妹は兄に対して遺留分の主張をして、生命保険についても兄の特別受益であると主張することはできないでしょうか。

回答 前段の遺留分の主張はできます。後段の特別受益による持ち戻し(その額を相続財産に加える)の主張は原則として認められていませんが、特別の事情がある場合には例外的に認められる場合があります。本件は特別の事情があるとは認めにくいと考えられます。


  1. 包括遺贈への遺留分の主張
    質問の財産の長男への包括遺贈については、他の相続人が遺留分の主張をできることには問題ありません。遺留分とは亡くなった人の兄弟姉妹以外の相続人に最低限保証される遺産の取得分です。民法1042条は①直系尊属のみが相続人のときは法定相続分の3分の1、②それ以外の場合は法定相続分の2分の1が遺留分とします。
    質問の亡父の3人の子どもは各3分の1の法定相続分がありますので、その2分の1が遺留分となります。
  2. 保険金受取人への特別受益の主張
    保険金は相続財産にならないとする判例があります(最高裁昭和40年2月2日判決)。この判例はその後の最高裁判決でもよく引用されています。生命保険金は被相続人(亡くなった人)の遺産ではないので、保険金受取人の特別受益にはならないとするのが基本です(最高裁平成16年10月29日判決)。
    但し、平成16年の最高裁判決は、例外として「保険受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金は特別受益に準じて持ち戻しの対象となる」とします。
    平成16年判決は、特段の事情は、①保険金の額、②この額の遺産の総額に占める比率、③同居の有無、④被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの事情を総合的に考慮するとしました。
    なお、相続人ではない人が保険金を受け取った事案で、上記のような特段の事情の留保をつけずに遺留分減額請求を否定した最高裁判決(平成14年11月5日)があります。
  3. まとめ
    以上のことから、相続人の1人が生命保険金を受け取った場合には、他の相続人は原則として特別受益による持ち戻しの主張はできませんが、例外的に上記の要素を考慮して特別受益に準じた扱いがなされます。
    そこで、肝心の考慮要素の中身ですが、上記①と②の保険金の額と遺産総額との比率ですが、その後の裁判例では保険金の額が遺産総額の半分以上である場合や、保険金受取人の相続する財産の価額に匹敵する金額の場合に認められやすくなります。上記③と④の要素ですが、保険金を受け取った人が被相続人と同居していて介護していた場合には、持ち戻しを否定する要素となります。
    その他の下級審判決には、保険金を受け取ったのが未成年の年少者で、他の相続人が全て成年であったことを考慮して否定したものがあります。
    質問の事例では、保険金の額は遺産総額に比べると小さく、長男が親と同居し、介護をしていたとの事情もあるので、持ち戻しの主張は認められないとする要素が強いです。
    なお、持ち戻しを認める場合のその金額については、平成16年判決の後は、下級審判決はすべて保険金の総額としています。それ以前は、死亡までに支払った保険料の金額を考慮する下級審判決もありました。


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