法律解説Q&A |保険金の受取人が「相続人」とされた場合、相続財産となるか

質問 先月、弟が亡くなりました。弟は「全財産を友人のAさんに遺贈する」との遺言書を残していました。一方で、弟が自分を被保険者としてかけていた養老保険の受取人を「満期のときは自分(弟)。その前に自分が死亡したときは相続人」としていました。
弟の相続人は私と妹だけです。この養老保険は私と妹が受け取れると考えていたところ、Aさんが全財産を遺贈された自分が受取人であると主張しています。どちらが正しいのですか。

回答 あなたの考えが正しいです。


  1. 受取人が指定された生命保険金と相続財産との関係
    生命保険金の受取人が指定されていた場合、その人はその内容の生命保険契約により生命保険を受け取ります。これは当然のことです。受取人が同時に相続人でもある場合、その相続人は、その人を受取人と指定した生命保険契約により保険金を受け取るのであって、相続により保険金を受け取るわけではありません(定説)。
    それでは、受取人が特定の人ではなく「相続人」と指定されていた場合はどうなるのでしょうか。これが質問の問題点です。
    質問の事例は最高裁昭和40年2月2日判決を元にしたものです。その事件では包括遺贈を受けたAさんは「相続人が受け取るというのは、相続人が相続によって保険金を受け取るということである。つまり、その保険金は相続財産である。相続財産は全て私に遺贈されたので、その保険金は私が受け取るべきである。」との主張をしたのです。

    なお、遺贈とは遺言によって財産を譲渡することを言います。包括遺贈とは、全部の財産を遺贈する場合や半分の財産を遺贈する場合などのように、対象を指定せずに割合で遺贈する場合を言います。特定遺贈は特定の財産を指定して遺贈する場合を言います。
    上記の主張に対して、最高裁判決は、保険金の受取人が「相続人」となっていた場合は、その人の「相続人」は相続によらずに保険契約によって保険金を受け取るとの理屈を述べました。
  2. 判例理論の基本的考え
    最高裁判決は、生命保険金は保険契約で指定された人が受け取るのはあくまでも保険契約に従って受け取るのであり、それは受取人が「相続人」と指定されていた場合も同じであるとして、それまでの理論を貫きました。
    生命保険金の受取人が相続人である特定の人に指定されていた場合に、保険金は相続により取得するのではないとしていることは、死亡した人の債権者が生命保険金を相続財産として差し押さえることを認めないことを意味します(古い判例。大昭和11年5月13日判決)。


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