法律解説Q&A |保険金受取人が指定されず、約款で相続人とされた場合

質問 先月、母が亡くなりました。母は死亡給付付傷害保険に加入していましたが、死亡時の保険金受取人欄には受取人を指定していませんでした。保険約款では死亡保険金の受取人の指定がない場合は相続人が受取人となるとされています。母の相続人は私のほかに父と弟がいます。
私と弟と父は保険金を3人で均等割りで受け取ることになるのでしょうか、それとも民法の相続分に従うのでしょうか。

回答 相続分に従うこととなります。但し、保険約款にこの場合について記載があればそれが優先されます。


  1. 受取人が指定されていない生命保険金
    死亡給付付傷害保険の死亡時の受取人が指定されていた場合、その人はその内容の保険契約により保険金を受け取ります。では死亡時の受取人の指定がない場合にはどうなるのでしょうか。質問の事例では約款の記載により被保険者の相続人が受取人となります。ここまではこの質問の前提事情となります。
    では、その被保険者の相続人が受け取る保険金の割合は、相続分に従うのでしょうか、それとも均等割りになるのでしょうか。均等割り説は民法427条(分割債権、分割債務は均等割りとなる)を根拠にしています。
    判例は、相続分に従うとしました(最判平成6年7月18日判決)。死亡保険金の受取人欄を空白にして約款で相続人が受取人となるようにした趣旨は、特に事情がない限り、相続分に従うとの趣旨であるとの理由です。
    仮に質問者の弟が亡くなっていて弟の子ども6人が代襲相続したような場合には、均等割りでは質問者とその6人とは1対6の差になります。最高裁判決の事案も代襲相続者のいた事案でした。代襲相続人が多い場合に均等割りすると、被相続人と相続人の死亡時期の違いにより大きな違いとなって不都合ということで相続分に従うとしたものと考えられます。
  2. 保険金は相続財産となるのか
    上記の場合、保険契約者は受取人を指定しなかった結果、保険約款により受取人が相続人と決まっています。これは保険契約上の取り決めにより相続人が受取人となったということであり、相続により保険金を受け取るわけではありません。従って、保険金は相続財産にはならないと考えられます。
  3. 本当に受取人が指定されていない生命保険金
    以上に対して、死亡時の保険金の受取人が指定されておらず、約款でもこの場合の受取人を決めていない場合にはどうなるのでしょうか。実際上はあまり考えにくい事案です。
    この点は判例もないのですが、学説上は保険契約者が自分を被保険者とする死亡給付付き傷害保険の死亡時の受取人を定めていない場合には、傷害時の受取人である保険契約者が死亡時にも受取人と(概念的には)なると理解した上で、その相続人がこの保険金請求権を相続により取得すると理解しているようです。
  4. 保険法との関係
    上記の相続分に従うとした最高裁平成6年7月8日判決はその後の保険法が制定されて変更されていないか、との問題があります。保険法は平成20年に制定され、平成22年に施行されています。
    生命保険について定めた保険法46条は「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」とします。これは被保険者と受取人が異なっていて、被保険者よりも先に受取人が死亡した場合の規定とされています。
    傷害疾病定額保険について定めた保険法75条は「保険金受取人が給付事由の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」とします。これも被保険者と受取人が異なっていて、被保険者よりも先に受取人が死亡した場合の規定とされています。
    これらの規定は、受取人の相続人の取得割合について何も規定していないため、民法427条に従って受取人の相続人は均等割合で保険金を取得することとなります。保険法制定時にも、この点が議論され民法427条が適用されずに、相続分の割合になることを条文に加えるべきとの議論がありましたが、その付け加えはなされませんでした。
    これらの規定は、本件の質問とは事例は異なります。本件の質問は約款で相続人が受取人として指定された場合です。上記の保険法の規定は指定された受取人が死亡していた場合についてのものです。
    この点を記載したのは、この論点を書いている著書でこの違いを混同しているように見受けられるものが散見されたからです。


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