法律解説Q&A |相続放棄について

  1. 熟慮期間(民法915条1項)
    親が借金を抱えたまま亡くなった場合に相続人である子は相続放棄をすることにより、借金の相続を避けることができます。相続放棄をすると借金のようなマイナスの財産だけではなく、プラスの財産も相続できません。
    借金もあるけれど資産もあり、全体としてプラスである場合には相続したいという場合には、限定承認という手続を行います。
    このように相続するか、相続放棄にするか、限定承認とするかを判断するための期間を熟慮期間と言います。民法915条は、相続があったことを知ったときから原則として3か月以内にその判断をしなければならないとしています。
  2. 熟慮期間伸長の申立(民法915条1項但し書き)
    例外的に3か月の熟慮期間を伸ばすことができます。この熟慮期間伸長の申入れは熟慮期間の3か月の間に裁判所に対して行なうことが必要です。相続人が財産を有しているけれども、相続人に対して債権があると主張している人がいてその債権の存否や程度に疑問がある場合などに伸長申立をします。 この伸長申立は個々の相続人ごとに行なう必要があります。他の相続人が伸長申立人をしていても、伸長申立をしていない人は熟慮期間を過ぎてしまうと相続したこととされます。
  3. 相続放棄の効果
    相続放棄をすると、「はじめから相続人とならなかった」とみなされます(民法939条)。
    この表現の意味は少し分かりにくいです。例えば相続人(子)が被相続人(親)よりも先に死亡していた場合も、「はじめから相続人とならなかった」と表現できそうですが、法的には誤りです。この場合は孫(相続人の子)が代襲相続します(民法887条)。代襲相続は死亡していた相続人の地位をその子が引き継ぎます。「はじめから相続人とならなかった」事案ではありません。相続放棄では、「はじめから相続人とならなかった」とみなされるので、代襲相続が発生しません。
  4. 放棄するべき人の範囲
    相続放棄をするべき人は、配偶者と最上位の相続順位となる人です。最初に相続する人が相続放棄をすると次順位の相続人に相続が発生します。次順位の人が相続放棄をすると、さらにその次の順位の人に相続が発生します。
    例えば、亡くなった人の子(第1順位)が相続放棄をすると、亡くなった人の親(第2順位)に相続が発生します。親が相続放棄をすると亡くなった人の兄弟姉妹(第3順位)に相続が発生します。亡くなった人の兄弟姉妹の次の順位の相続人は居ませんので、すべての兄弟姉妹が相続放棄をした場合は、そこで相続するべき人はいなくなります。
  5. 残った相続人の相続分が増える
    相続放棄をすると、残った相続人の相続分が増えます。例えば3人の子どもが相続人となった事案でそのうち1人が相続放棄すると残りの2人の相続分は3分の1から2分の1となります。
    このことが重要な問題となる事案もあります。4人きょうだいの長男が家業を継いで親の面倒も見てきた状況で、被相続人(親)が長男に全財産を譲るとした遺言に従って、残りの3人のうち2人が相続放棄したが1人が遺留分を主張したという事例では、遺留分は当初は8分の1(4人各4分の1の半分)であったのが、相続放棄のおかげで4分の1(2人各2分の1の半分)に増えています。借金もなく、家業を継ぐ人に全財産を譲ることに異論のない場合には、相続放棄ではなく相続分の譲渡をすれば良かったといえます。
  6. 相続放棄した場合でも葬儀費用は相続財産から出せる
    相続放棄をした者でも被相続人のための相応の葬儀費用を被相続人の相続財産から出せるとした裁判例があります(東京地裁昭和59年7月12日判決)。


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