法律解説Q&A |推定相続人の廃除

質問 私は家業を継ぐのが嫌で父親と折り合いが悪く、実家を飛び出して以来、実家とは音信不通です。
家業は弟が継ぎました。最近、父が亡くなったと聞きましたが、できれば財産を相続したいと考えています。
このような場合、父は私を相続人から廃除できると聞いたのですが、廃除について説明してください。

回答 推定相続人の廃除はその理由となる事柄が法律で定められていますが、あなたの場合廃除にはなっていないと考えられます。



  1. 推定相続人の廃除(民法892条)
    民法892条は「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人はその推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」とします 被相続人は遺言によっても廃除の意思を表示することができます(民法893条)。「被相続人」とは、その人が亡くなると相続が始まる人、つまり相続させる側の人のことを意味します。
  2. 廃除事由
    被相続人が推定相続人を廃除できる理由は以下の3つが法定されています。それ以外の理由での廃除は認められません。
    1. 被相続人に対する虐待
    2. 被相続人に対する重大な侮辱
    3. 推定相続人の著しい非行
    上記の事由があれば廃除ができますが、廃除は相続権を剥奪するという強い効果を生じるので裁判官に「これは相続できなくなっても仕方ない」と評価されるほどの内容が必要です。以下それぞれについて説明します。
  3. 被相続人に対する虐待
    廃除事由の1つは被相続人を虐待することです。虐待という言葉の意味からも「親とケンカして1回殴った」との単発的なものでは足りず、一定期間の行為を必要とします。また、被相続人(親)の側にも責任があるとして、虐待を認めなかった裁判例があります(名古屋高裁金沢支部平成2年5月16日決定)。
    裁判例では、末期がんで自宅療養中の妻の療養に極めて不適切な環境を作り出し、妻の人格を否定するような暴言をした夫に虐待による廃除を認めたものがあります(釧路家裁北見支部平成17年1月26日)。
  4. 被相続人に対する重大な侮辱
    単発的な侮辱は一過性のものとして廃除事由にならないと考えられます。しかし、高齢の親の世話をしないことなどのその他の事由も加わることにより、廃除事由になる場合もあります。
    裁判例では、被相続人にぬるい湯が入ったやかんを投げつけ、「早く死ね」と罵倒し、被相続人に対する扶助義務も尽くさなかった事案で、暴言等は一過性の侮辱であり廃除事由にあたらないとした原審を取り消して「重大な侮辱」があったとして排除を認めたもの(東京高裁平成4年10月14日決定)があります。この事案は親を扶助しなかったという扶助義務違反とやかんを投げつけるという暴行も加わって、重大な侮辱とされたと考えられます。
  5. 著しい非行
    非行も一過性のものでは足りず、上記2者に匹敵するものが要求されます。裁判例では、相続人(子)が窃盗を繰り返して何度も服役し、現在も服役中であり、ほかにも交通事故を繰り返し、借金を重ねるなどして、父親に精神的苦痛や多額の経済的負担を強いたとして「著しい非行」を認めたものがあります(京都家裁平成20年2月28日)。
  6. 親子と夫婦・養親子の違い
    裁判例では実の親子と比べると、夫婦や養親子の場合には廃除を認めやすくなっているとされています。夫婦や養親子の場合には離婚や離縁で相続権がなくなるため、離婚・離縁の原因となり得る事実があれば廃除を認めて然るべきと言えるからです。
    養子に対する離縁訴訟を提起した養親が、養子を相続人から廃除するとの遺言を残して死亡した事案において、養子は養親が10年近く入院および手術を繰り返していることを知りながら、看病したり面倒を見たりしなかったこと、離縁訴訟が提起されたことを知った後、養親の体調も意に介さず訴訟の取り下げを執拗に迫ったこと、訴訟をいたずらに遅延させたことなどから「著しい非行」に当たるとして廃除を認めた裁判例(東京高裁平成23年5月9日決定)があります。


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