法律解説Q&A |相続人の欠格事由

質問 私は被相続人である父を車に乗せているときに交通事故に遭い、父を死なせてしまいました。この場合、私には父の財産を相続することはできなくなるのですか。

回答 相続人となる予定の人(推定相続人)でも、欠格事由のある人は相続できません。質問の事例では、故意の事件(殺人)ではないので欠格事由にはあたりません。



(相続人の欠格事由、民法891条)
次の人は相続人となることができません。

  1. 1号 故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとして刑に処された者
    1. (注1)殺人の故意が必要ですので、過失致死も傷害致死も含まれません。殺人未遂は含みます。
    2. (注2)執行猶予の場合は執行猶予期間の経過で刑の言い渡しは効力を失う(刑法27条1項)ので欠格事由になりません。
    3. (注3)たんに殺害する意思(故意)のみではなく、相続法上有利になろうとする意思が必要であるとする説(二重の故意説)が多数説です。但し、近時は反対説も強いです。
  2. 2号 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発(告訴)しなかった者
    但し、その者(告発しなかった者)に是非の弁別がない場合や、殺害者が自己の配偶者又は直系尊属(親、祖父)であった場合は、欠格とはならない。
    1. (注)殺人事件は告発がなくとも捜査が始まるので、その場合には告発は不要です。捜査機関が殺人ではなく自殺と判断したけれど、本当は殺人であり、そのことを告発しなかった場合などが本条の検討対象になります。
  3. 3号 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更すること妨げた者
  4. 4号 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
    1. (注)相続人が被相続人に自分に有利な遺言書を書かせて、それが被相続人の本意ではないとして遺言が無効とされた裁判例が多数あります。この場合、形式的には本条項にあたるように見えますが、それにより欠格とされた裁判例は見当たりません。欠格は制裁として非常に強いため、判例ではかなり厳格に解釈されており、「詐欺または強迫」は特別の事情が必要であると考えられます。
  5. 5号 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
    1. (注)公正証書遺言を保管していた相続人がこれを開示しなかった事例で、本条の隠匿を否定した最高裁判決(平成6年12月16日)があります。公正証書は立会人も2名いて公証役場にも保管されていることを重視して「隠匿」を否定したとも言えそうですが、この事例は特有の事情もあるため、「公正証書遺言なら隠しても本条の隠匿にあたらない」との一般化まではできません。


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